前回の記事では、salyuとの出逢い、二度の失恋、そこからsalyuに救われたことを書いた。→『salyu』と共に(前編)
実はその中で、書かなかった事実がある。
懺悔の意味でも、今回まずはそこから書いていこうと思う。
2009年、二度目の失恋の際に、僕は重大な罪を犯していた。
salyuの武道館ライブ後に告白し、振られた女性には、実は彼氏がいたのだ。
彼氏がいるのを知りながら、仲良くなり告白をした。
人様のものを盗もうとした罪は重い。
失恋後、salyuの歌声によって傷は癒されたが、罪の意識は残っていた。
その意識を消そうと、一人で寺社仏閣を巡り始める。何年も初詣や墓参りも行ってなかった人間が、急に神様仏様に救いを求めたのだ。
それが2009年秋のことだった。
【salyuと新たな船出】
当時鎌倉に住んでいたため、寺社仏閣は巡り放題だった。とにかく行きまくり、数をこなした。最終的には、密教の修行の場とされる洞窟にまで潜入していた。神頼みは、もはや修行の域に達していた。
その修行の甲斐あってか、結果はすぐでた。2009年冬、聖母マリアのような友人が、一人の女性を紹介してくれた。ちゃんと彼氏のいない女性だった。
最初はmixiだけのやり取りが、連絡先を交換し、年が明けてからは直接会うようになった。 その彼女と仲良くなってきた頃、3rdアルバム『MAIDEN VOYAGE(メイデン・ヴォイジ)』がリリースされる。すぐに購入し、聴き込み、そして彼女に貸した。
『MAIDEN VOYAGE』に収録されたこの曲を聴くと、妙に甘酸っぱい気分になった。
まるで、『君に届け』の世界に迷い込んだような。でも、どちらかと言えば、風早ではなく爽子のような気分。そんな爽子状態のまま春を迎えた。
2010年春、『MAIDEN VOYAGE』のアルバムツアーが始まった。昨年の武道館ライブから約一年。今度は、その彼女をライブに誘った。
僕は一年で成長していた。
感動的なライブの勢いに任せるのではなく、一週間後、改めて会って告白をした。
そして、お付合いすることができた。
僕の中で「次に付き合う人とは結婚を前提に」と、勝手に思っていた。
そのことを何となく彼女に伝えると、「昔から結婚願望がないので、その気にさせて下さい」と何となしに言われた。
そこから、ゼクシィを1冊ずつ積みあげるように、プレゼンを重ねていった。「僕と結婚すると何が良いのか」をテーマに、卒論よりも、社内会議よりも、丁寧なプレゼンをしていった。
そして、『新しいyes』を聴いていた僕には、根拠のない自信があった。
風が舞い誘ったら あなたが微笑んだら 新しいyesが聴こえた
salyuの言うことを信じて、彼女を笑わせることに尽力し、プレゼンも仕上げていった。 その甲斐あって、3ヶ月後、ついに彼女からの「yes」を聞くことができた。
『MAIDEN VOYAGE』は処女航海、つまりは「新たな船出」を意味する。
『Merkmal』から一年、『MAIDEN VOYAGE』をリリースしたsalyuと共に、僕も「新たな船出」を迎えた。
【salyuとアンドロイドと人間】
結婚生活は、本当の意味での船出だった。
いわゆる転勤族だった僕は、全国各地に飛んだ。妻との転勤はまるで旅行のようで、全国にたくさんの思い出ができた。
そんな長旅が5年ほど続いた2015年、妻が妊娠をした。
妊娠安定期に入った頃、5thアルバム『Android & Human being』がリリースされ、それと同時に、僕は何度目かの転勤を言い渡された。
新しい土地での仕事は、多忙を極めたが、妻とそのお腹を見ると元気がでた。
とにかく、お腹の子に会えることを糧に、日々を過していた。
君に きみに キミに アイニ ユケル 行ける
2015年秋、待望の女の子が生まれた。
喜びもつかの間、娘が生まれてから、仕事がさらに忙しくなった。 仕事が恋敵となり、家族との時間を奪っていく。→『花束みたいな恋をした』と最強の恋敵
事務的な仕事が増えるにつれ、家族と過ごす時間も事務的になっていった。
アンドロイドのように働き、人間らしく疲弊した。
『Android & Human being』の、一人二役はさすがに限界に達した。
2017年秋、ついに仕事を辞め、自然豊かな妻の実家に住まいを移した。
たとえいまは やむと思えないほど はげしい雨でも I will be there(待ってる)
待っててくれた妻と娘のお陰で、ようやく人間を取り戻せた。
【salyuと共に】
2015年の5thアルバム『Android & Human being』以降、しばらく新曲を出していなかったsalyuだが、2019年『僕らの出会った場所』をリリースした。
そして、2021年には『器』『taxi』『tokyo tape』と、3曲たて続けにリリースをする。
これまでsalyuといえば、プロデューサー「小林武史」が定番であったが、最新曲『taxi』『tokyo tape』は、新しく「Yaffle」をプロデューサーとして起用した。
ちなみに、「Yaffle(ヤッフル)」は、藤井風、iri、SIRUPなど、いま注目のアーティストのプロデュースを手掛ける人物である。
自分自身は、わたし自身が作ったものではない
この言葉は、かつて武道館ライブのMCでsalyuが発した言葉である。
「新しいプロデューサーを迎えたsalyuは、新しい自分自身を作ろうとしている」僕はそう感じた。
武道館のMCではこうも語っていた。
歌を歌わせてもらうことも、自分一人じゃできないこと。 自分の哲学だと思っている言葉であったり、想いであったり、声や歌声一つとっても、誰かの影響や教えでここまで私という人間を形作ってもらったんだなと感じて、感謝の気持ちでいっぱいです。
2021年、僕自身は新しく農業を始めた。
正規の仕事があるので、兼業ではあるが、野菜や果物を作り始めた。
そこに至るまでには、家族や信頼できる仲間の助け、誰かの言葉や哲学の影響があった。 そして、salyuの影響もそこにはあった。salyuの言葉を借りれば、そういった全てに感謝の気持ちでいっぱいだ。
そして、2022年。
コロナ、戦争、経済不安、気候変動、世の中なんだか不安なことだらけである。
それでも、何かしら楽しみや希望を見つけて、生きていかなければならない。
僕は、近々salyuの新しいアルバムが出るのではと、勝手に妄想している。 そして、そのことを密かに楽しみにしている。もしアルバムが出て、それを畑で聴けたら。。。
なんて、ささやかな希望を胸に抱き、今日も『tokyo tape』とsalyuと共に、畑に出ている。