「カレーにはナンよりライスより、チャパティーが一番合う」
この曲の中で聴いたこの言葉が、カレーの匂いようにイイ感じに残っていた。
それから、チャパティーが気になり、インドが気になり、インドを扱った映画を何本か観た。とにかくインドは、どれもスケールがデカい。そして、何だか深い。抽象的な表現だが、「生きる」ことについて、いつも考えされられる。
今回観た映画『聖者たちの食卓』も、やはり「生きる」ことについて、深く考えさせられた。
【毎日10万人が訪れる無料食堂】
舞台は、インド北西部にある、シク教の総本山「黄金寺院」。ここで、ランガルという共同食堂が開かれている。そこでは500年以上にわたり、毎日、10万人分もの食事が無料提供されているという。
映画の紹介文章に、以下の一文があった。
人種も、国籍も、宗教も、職業も関係なく、お金を持っていなくても、そこに行けば、いつでも温かな食事が供され、空腹が満たされる
なんという楽園。
映画では、その楽園の日常が、特に説明もなく、淡々と映し出される。
【300人のボランティア】
では、毎日10万人に食事提供をする食堂が、どのように運営されているのか。 その様子が映画から分かる。
まず、10万人という数字にいきなり圧倒されるが、そもそも食堂の収容人数は、一度に5000人らしい。それを、入れ替え制で食事提供している。
食事が済んだら片付け、人を入れ替え、次の食事が用意される。
一度に5000人、全部で10万人とすると、単純計算で1日に20回入れ替えをしていることになる。その辺は、映画内で説明がなかったので定かではないが。
それ以前に驚くことは、その運営を300人のサバダール(ボランティア)で行っているということだ。これも、映画内で説明はなく、予告映像を観て知った。
この映画の見どころは、このサバダール達にあると言ってもいい。
チャパティーの生地を練る人 玉ねぎを刻む人 カレーの大鍋をかき混ぜる人 食器を洗う人 床を掃除する人
完璧な分業化のもと、他にも沢山のサバダールがいて、それぞれの仕事ぶりが見られる。各サバダールの動きは職人技で、それを見るだけでも面白い。
包丁で玉ねぎを刻む人なんかは、もはや手元なんか見ていない。ノールックで刻む。 職人技を超えて、もはや達人技である。
たった300人ではあるが、その達人技と完璧な分業化が、毎日10万人分を可能にしている。
【シンプルに生きること】
1日に使う食材の量
小麦粉 2300kg 豆 830kg 米 644kg 牛乳 322l
これだけの食材が、毎日使われている。とんでもない量である。
映画の冒頭で、芋の収穫をする人たちがいる。 サバダールではないが、そんな人たちによっても、この食堂は支えられている。
みんなで育てて、みんなで作って、みんなで食べる。
シンプルなことではあるが、これだけやっておけば、みんな生きていける。 お金がなくても、10万人が生きていくことができる。
シンプルに生きるなら、人間はこれだけで良いのかもしれない。
「シンプルに生きる」ことを考えるとき、最近ではミニマリストっぽい概念が中心になっているが、ほんとはこっちなんじゃないかと思う。
育てて、作って、食べる。
僕自身も、シンプルに生きたいと思って今の生活に至っている。 10万人分の食べ物は育てられないが、自分と家族の分くらいは育てたい。 たくさん出来たら、他の誰かにも食べてもらいたい。
そんなことを思って、今日も畑に出ている。