服を買うとき、だいたい迷う。
この色で良いのか?
このサイズで良いのか?
そもそもこの服は自分に似合うのか?
そんな迷いに応えるべく、数多くの服が作られ、売られている。 服に限ったことではないが、その数がとにかく多い。
多過ぎて、逆にどれを選べば良いのか分からない。そんな迷いを新たに生む。
やたらとメニューの多い中華料理屋で、注文するときの感覚に近い。
・なぜ服が多いのか。
・どの服を選べばいいのか。
そんな僕のささやかな疑問に、丁寧にヒントを与えてくれるのが、この本だった。
【なぜ服が多いのか?】
僕は以前、小売り業界に身を置いていた。十数年勤めた会社を、ある時辞めた。
辞めた理由はいくつかあるが、キッカケとなった一つの出来事がある。
それは、大量の商品を捨てたこと。
限られた売り場に新商品を入れるために、まだ使える在庫品を大量に廃棄した。
もちろん廃棄に至るまでに、売場を工夫をしたり、値下げをしたり、売る努力は重ねた。それでも売れなかった商品は、結局捨てたのだ。上からの指示とは言え、さすがに心が痛んだ。
大量の売れ残りを前提に価格を設定し、ムダな商品を作りすぎている
アパレル業界に限らず、どんな業界にも当てはまる気がする。
作りすぎた商品を、今度は消費者が買いすぎる。消費者のもとでムダに余った商品は、最終的にどこかへ捨てられることになる。
本の内容から逸れるが、「古着の寄付」の問題を最近知った。
寄付などの名目で、先進国から発展途上国に送られる大量の古着。
その一部が、格安で転売され、現地の(服に関わる)産業がダメージを受けることがあるそうだ。それ以前に、そもそもの数量が多すぎて、送ったところで現地で捨てられることも。
もちろん、正式な手続きを経て、困っている人に届いているのが大半だろう。ただ、別の側面があることも覚えておきたい。小さな親切が、大きなお世話にならないために。
いずれにしても、これらの問題の根本は、多く作りすぎている事にあると思う。
【どの服を選べばいいのか】
ひとまず服が多い理由は分かったとして、その中からどの服を選べば良いのか。
本の中では、一部ブランドを取り上げて、そのヒントを与えてくれる。
それらの企業が、どんな考えや想いのもとで服を作っているのかが分かる。
例えば、米国ブランド「Everlane(エバーレーン)」。このブランドの特徴は、製造過程の透明性にある。
材料費、人件費、流通コストに至るまで、原価がどれだけかかり、エバーレーンかいくら利益をとるかまで開示している。
開示情報はコストだけに留まらず、作られた工場、従業員、工場主、工場内の様子など労働環境にまで及ぶ。
徹底された透明性で、他ブランドと差別化をし、消費者から支持を得ている。
日本ブランドでは「ミナペルホネン」
このブランドの特徴は、持続可能性への徹底したこだわりである。
mina perhonen のスタッフは、いつも100年後を想いながら活動しています
この言葉に、ブランドの全てが集約されていると思う。
ハギレも、大切な素材
服を作る際に15%ほど出てしまうハギレ生地も、小物や家具に応用し使い切るそうだ。
昨今、サスティナブル(持続可能)がよく言われているが、ミナペルホネンはずっと前から取り組んでいる。
【選ぶ自由と理由】
僕自身のことではあるが、ここ数年で「Good On」というブランドの服を愛用している。上質なアメリカ綿を使ったTシャツを扱う、日本のブランドである。HPにはこのように書いてある。
ほつれやパンクを気にせず10年着るとこができるタフな製品
この言葉の意味は、単に頑丈ということだけでなく、洗濯すればするほど風合いが良くなっていき、10年は着られるということである。
持続可能性という意味では、ミナペルホネンと同じ。これが、僕が「Good On」を選んだ理由である。
誰にもでも、好きな服を選ぶ自由があり、それぞれに選ぶ理由があると思う。僕はこの本を参考に、持続可能性を理由の一つに加えることができた。今後、もし服選びに困っている人がいたら、その人に似合う色よりも、この本の存在を教えてあげたい。